世界の高齢者


動きだす地球規模の創薬プロジェクト
アルツハイマー治療薬開発へ
 薬の開発には、莫大な費用と多大なリスクがつきまとう。新薬を1つ誕生させるためには、十数年の歳月と数十億から数百億円の開発費が必要となる。また新薬候補物質が実際に薬となって世に出る確率は、2万分の1といわれる。生き残り策として、近年、医薬品業界は世界的に再編が進んでいる。米国と英国、ドイツとフランスの製薬企業など、国境を越えての合併が行われ、メガファーマといわれる巨大企業が、次々と生まれている。
そして6月、新薬開発の歴史は、新たな時代を迎えた。メガファーマといわれる欧米の12の会社が、FDA(米食品医薬品局)、NIA(米国立加齢研究所)、NINDS(米国立神経疾患脳卒中研究所)、EMA(欧州医薬品庁)の協力のもと、スクラムを組み共同でアルツハイマー病、パーキンソン病など中枢神経系疾患の治療薬を開発することで合意に達したのだ。その手始めとして、ファイザー(米国)、アストラゼネカ(英国)、ロシュ(スイス)の3社は、アルツハイマー病の11の臨床試験と、それに参加している4000人の患者のデータをオープンにして共有することとなった。今回の合意によって、治療薬の開発が早まり、薬の安全性が高まると期待されている。何よりも開発に伴うリスク、無駄な出費・研究時間が節約される。
 現在米国で、アルツハイマー病など中枢神経系疾患を患っている患者は650万人といわれる。その治療看護費は、年間1750億ドルに達し、医療経済学の視点からも、合意の成果が待ち望まれている。複数の製薬メーカと大学が、疾病の遺伝子解析と創薬のため産学共同チームを立ち上げることもめずらしくはなくなったが、製薬メーカのこのような動きを、リーマン・ショック以降の新たなビジネスモデルと分析する経営学者もいる。  アルツハイマー病の治療薬の開発を成功させるためには、人類を月に送ったアポロ計画並みの国家プロジェクトが必要と、このコラムで書いたことがあるが、それを乗り越え、地球規模でのプロジェクトがスタートしたともいえる。
日刊工業新聞 2010年7月30日

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