米国の高齢者


ニューヨーク市老人局が推奨する
健康時に終末期医療の備え
 団塊の世代が高齢者の仲間入りをして、少子高齢化時代は本番を迎えた。介護保険、成年後見制度、日常生活自立支援事業の公的支援制度は整えられたものの、漠然と老後に対して不安を抱いている人が多いのではないだろうか。特別養護老人ホームに入居を希望している42万人が、待機中であるというのが、わが国の現実である。
 健康長寿をどんなに願っても、加齢に伴う病気からは逃れることはできない。米国では、65歳を超えると10人に1人、85歳を超えると2人1人が認知症にかかっている。ニューヨーク市老人局では、たとえ認知症を発症しても、QOL(生活の質)の高い生活を維持するため、自分の終末期医療のあり方と死後について、健康な時に指示をしておくことを推奨している。
 認知症にかかれば、やがて意思表示ができなくなる。その備えとして、医療行為に対する代理人の選定、リビングウィル(尊厳死宣言)の用意、DNR(Do not resuscitate 治癒が期待できなくなった時の蘇生治療の拒否)に対しての意思表示が不可欠だという。さらに葬儀や埋葬法の希望を述べ、遺言を書き、法的トラブルや経済問題で禍根を残さないようにするためのアドバイスまでしている。
 これに対して日本人は、自分の死や死後について考え、準備しておくことが苦手だ。縁起でもないと思う人もまだまだ多い。不確定なことに対して、あらかじめ想定をして決めておくことが得意ではない。決定を先延ばしにし、何も決めずに臨終を迎え、それが残された家族の争いの原因になることも珍しくはない。
 人生50年の時代には、認知症、介護について心配をする必要はなかった。日本は世界一長寿となり、人生90年の時代となった。誰もが認知症など老年症候群にかかり、介護を受け、医療の世話になって、死を迎える。1人ひとりが自分の終末期医療と死後について、準備をしなければならなくなった。また、それによって、老後への不安も解消されると思う。上手に死を迎えることは、上手に生きることでもある。
日刊工業新聞 2010年3月12日

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